従業員 各位
日頃のご精勤に心より感謝申し上げます。
2月度の衛生委員会の資料になります。
2月度のテーマは
「コロナウイルス感染症に対するワクチンついて」です。
皆様に置かれましては、是非とも健康に留意いただき、
業務に努めていただきたいと考えております。
ご安全に!!
令和3年2月度
衛生委員会資料
産業医 山元 俊行
コロナウイルス感染症に対するワクチンついて
ワクチンはこれまで多くの疾病の流行防止と死亡者の大幅な減少をもたらし、
現在もたくさんの感染症の流行を抑制しています。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止に、
ワクチンの開発と普及が重要であることは言うまでもありません。
一方で、ワクチンは感染症に罹患していない健常人や
基礎疾患のある人に接種することから、きわめて高い安全性が求められます。
パンデミックのためにワクチン導入の緊急性だけが優先され、
安全性の確認がおろそかになってはいけません。
COVID-19の感染拡大が進む中、欧米では新たに開発された
COVID-19 ワクチンの接種が欧米を中心に2020 年 12 月初旬から始まりました。
わが国でも COVID19 ワクチンの承認申請が行われ、
2021 年四半期内には接種開始が期待されています。
そこで、アメリカのファイザー社とドイツのビオンテック社が
開発した新型コロナウイルスのワクチンに対する研究結果と
一般社団法人日本感染症学会 ワクチン委員会が発表したCOVID-19 ワクチンに関する
提言から、ワクチンの効果と安全性をまとめました。
・有効性は、非常に高い
・副反応が全くないワクチンはない
・mRNAワクチンは、ヒトの染色体には組み込まれず比較的安全性が高いことが予想される
・他のワクチンに比べ、接種部位の痛みが強い可能性がある
・他のワクチンに比べ、発熱(38℃以上)の頻度が高い可能性がある
・発熱は、若い人に多い傾向がある
・倦怠感、頭痛、寒気、嘔気・嘔吐、
筋肉痛なども報告されているが、対照群でもある程度みられるため
ワクチンが原因ではない可能性がある
・ワクチンを接種した189万人の中の21人(100万人あたり11.1人)がアナフィラキシーを起こした
(インフルエンザワクチンのアナフィラキシーの頻度は100万人あたり1.3人)
・アナフィラキシーの症状が出た21人の中17人が過去に薬や食べ物に対するアレルギー反応の歴があった
・アナフィラキシーをおこした85%の人が接種後30分以内に症状が出た
この21人で死亡例はなく、21人全員が後遺症なく回復した
COVID-19 ワクチンの有効性:
ファイザーとモデルナの mRNA ワクチンでは、
第Ⅲ相臨床試験の中間報告が発表され、 有効率 90%以上という優れた成績がみられています。
ちなみにインフルエンザワクチンの 65 歳未満の成人での
有効率が52.9%(2015/16 シーズン)と報告されていることを考えると、
有効性は非常に高いと考えられます。
COVID-19ワクチンの安全性:
ワクチンの副反応とは、ワクチン自体によって誘導された
健康上不利益なことまたはそれが疑われるものですが、
副反応がまったくないワクチンはありません。
接種部位には腫脹や疼痛など何らかの局所反応が必ずみられますし、
一定の頻度で発熱や倦怠感などの全身症状も一過性にみられます。
ごくまれに、接種直後のアナフィラキシーショックなどの重篤な健康被害も発生します。
COVID-19 ワクチンとして開発されているワクチン、
とくに mRNA は分解されやすく長期間細胞内に残存することはなく、
またヒトの染色体に組み込まれることはありませんので、
比較的安全性は高いことが予想されます。
しかしながら、mRNA を今後繰り返し投与する場合の安全性や ワクチンに含まれる
物質の長期的な安全性はまだ明らかになっていません。
いずれのCOVID-19 ワクチンもヒトでは初めての試みですので、
どのような副反応がどのくらいの頻度でみられるのかを理解し、
接種後の健康状態をよく観察しておくことが重要です。
臨床試験における有害事象:
COVID-19 ワクチンの臨床試験の局所反応では、
mRNAワクチンの疼痛の頻度が70~80%台と高いことがわかります。
疼痛の中でも、ファイザーのワクチンでは、1回目接種後の約30%、
2回目接種後の約15%に日常生活に支障が出る中等度以上の疼痛が報告されています。
疼痛の70~80%という頻度は、成人における不活化インフルエンザワクチン接種時の
頻度 10~22%に比べてはるかに高く、比較的接種部位の疼痛が強いとされている
23 価肺炎球菌ワクチン(PPSV23)の 58.3%、
13 価肺炎球菌ワクチン(PCV13)の 68.2%と比べて同等もしくはそれ以上です。
mRNA ワクチンでは、さらに全身反応の有害事象が高頻度にみられています。
とくに、倦怠感、頭痛、寒気、嘔気・嘔吐、筋肉痛などの頻度が高くなっていますが、
これらの症状は対照群でもある程度みられていることに注意が必要です。
発熱(38℃以上)は 1 回目では少ないですが、2 回目の接種後に10~17%みられています。
発熱は対照群ではほとんどみられていませんので、ワクチンによる副反応の可能性が高いと思われます。
とくに高齢者よりも若年群で頻度が高い傾向があります。
不活化インフルエンザワクチン、PPSV23、PCV13 の発熱の頻度は、それぞれ 1~2%、1.6%、4.2%ですので、
mRNA ワクチンでは注意が必要です。
また、重篤な(serious)有害事象は、ファイザーの臨床試験では接種群で 0.6%、
対照群で0.5%とほとんど差はありませんでした。
ファイザーのワクチンを接種した189万人の中の21人(100万人あたり11.1人)が
アナフィラキシーを起こしたと報告しています。
インフルエンザワクチンのアナフィラキシーの頻度が100万人あたり1.3人で、
インフルエンザよりは頻度が多いとはいえ、頻度としては十分まれといえます。
また、アナフィラキシーの症状が出た21人の中17人が過去に薬や食べ物に対する
アレルギー反応の歴があったと報告されており、基礎疾患やアレルギー歴のない方が
アナフィラキシーを過剰に恐れる心配はないといえます。
アナフィラキシーをおこした85%の人が接種後30分以内に症状が出ました。
この21人で死亡例はなく、21人全員が後遺症なく回復したと報告されています。
アレルギーの原因物質としては、ワクチンに含まれるポリエチレングリコールという物質が指摘されています。
ただし、喘息、じんましんを起こしやすい人、食べ物アレルギー、スギ花粉症、
などのある人は注意が必要なので、コロナワクチン接種の際には、その旨を申し出ましょう。
臨床試験の被接種者は白色人種がほとんどで、アジア系の割合が少ないため、
人種による副反応の頻度の違いがあることを前提に、
国内での臨床試験の安全性の確認が欠かせません。
さらに、ファイザーの臨床試験における 75 歳以上の割合は、0.4%であり、
超高齢者への接種の安全性も十分確認されているとは言えません。
またさまざまな基礎疾患をもつ方も被接種者に含まれているとは言え、
その数は十分ではありませんので、今後さらに基礎疾患ごとの安全性を検討する必要があります。
長期的な有害事象の観察の必要性:
これまでの COVID-19 ワクチン臨床試験での被接種者数は、
数千人から数万人台です。対象者数が限られるため、
数万人に 1 人というごくまれな健康被害については見逃される可能性があります。
新しく導入されるワクチンについては、数百万人規模に接種されたのちに
新たな副反応が判明することも考えられます。
数年にわたる長期的な有害事象の観察が重要です。
終わりに:
ワクチンも他の薬剤と同様にゼロリスクはあり得ません。
病気を予防するという利益と副反応のリスクを比較して、
利益がリスクを大きく上回る場合に接種が推奨されます。
国が奨めるから接種するというのではなく、
国民一人一人がその利益とリスクを正しく評価して、
接種するかどうかを自分で判断することが必要です。
そのための正しい情報を適切な発信源から得ることが重要であり、
国や地方公共団体および医療従事者はそのための情報発信と
リスクコミュニケーションに心がける必要があると考えます。